NY PHOTO STORY
retrospective
by Silver Magazine

ヘアスタイルは洋服以上にその人のスタイルを示すものとも言える。けれども男心としてはいつも髪型を気にして鏡を見るような男にはなりたくない。そんな浅はかなこだわりで、ヘアクリームなどで髪をセットするようなことをしてこなかったし、いつも帽子を被っていた。ただ大人になるといつも帽子を被っているわけにもいかないシチュエーションだってあるわけで。そんな時に親しい友人たちを介して、ひとつのヘアオイルに出会った。LINC ORIGINAL MAKERS。クラシックなデザインのボトルで、昨今のトレンドともかけ離れた佇まいが印象的だった。試しに、と使ってみると、これがすごく良かった。嫌味のない奥深い香り、何よりも髪にしっかり馴染んで、夜までまったく髪のことが気にならなかったのだ。髪型をキメるのではなく、本来の自分に馴染んで、そのまま身だしなみを整えてくれる、とでも言うのだろうか。それ以来、僕はLINCのプロダクトを愛用し続けることになる。

LINC ORIGINAL MAKERSは昨年末NYへも出店を果たし、世界的なブランドへ飛躍の一歩を辿る。日本発のクオリティと、気の利いたセンス。静かな佇まいが世界でどんな評価を受けるのだろうか。

人と人を、つなぐもの
ブランドの原点

リップバーム。それが始まりだった。多くの友人に恵まれていた創業者は、人と人とのつながりを大事にし、いつも人のことを考えていた。リップバームが必需品だった彼はいろいろな種類のものをいつも試していた。そうすると、そのリップバームから会話が生まれていることに気づく。そして自分でリップバームを作れば、人と人とのつながりを作るキッカケになるのでは、というシンプルな発想からLINCは生まれた。それは結果的に単なる保湿アイテムではなく、手にすることで会話が生まれ、人と人とをつなぐ“きっかけ”となるように設計された、小さな装置でもあった。無言のままポケットから出されたリップから、ふとした会話が始まる。それこそがLINCの描いた景色だった。

ブランドの立ち上げにおいて、LINCはネット販売に背を向けた。試行錯誤を重ね、クオリティには自信を持てていた。自分たちが自信を持って本物と信じるプロダクト、ブランドの空気感は、対面でしか伝わらない。そう信じ、実店舗を構える選択をした。ブランドの“体温”を正しく伝えるために。誰にでも届くようにするのではなく、必要としている人に、正しいかたちで届くように。

ヘアケア製品は信頼のおける美容室のみで展開し、プロの現場でも評価されてきた。対面販売による体温を感じるブランドの佇まいと、プロユースという2つの側面も相まって、やがて一般にも広まっていく。その品質は世界的なヘアスタイリストであるTomo Jidai氏にも認められ、彼の現場でも実際に使用されている。品質に対する誠実な姿勢はプロフェッショナルたちからの支持に繋がっている。

プロダクトのデザインには、古き良きヨーロッパの空気がある。クラシックで、どこかあたたかく、人間味がある。LINCが目指すのは、一過性のトレンドではなく、時間を重ねることで美しくなるもの。香りの開発も、記憶をたどる行為に近い。創業者自身の過去の体験―たとえば兄が使っていた香水の記憶―が香りの軸となり、人間の奥底にあるノスタルジーに訴えかけてくる。
リップバーム1本から始まったブランドは、今やヘアケア、香水、スキンケアまでを手がけるライフスタイルブランドとなり、また新たなフェーズを迎えている。

プロダクトと思想を世界の中心へ

最初の海外出店先として選ばれたのは、ニューヨーク・ブルックリン。世界のカルチャーが交錯する世界最大のこの都市は、LINCにとって、ブランドの思想が通用するかどうかを試す街だった。現地に構えた店舗もまた、ただの販売拠点ではなく、LINCを媒介とした文化の交差点として位置付けている。ブランド創立時からの、人をつなぐきっかけである、という思想をそのままに。


100年後も、誰かのバッグの中に

真摯に作り、丁寧に届ける。
日本のブランドならではの、実直で繊細なプロダクトが世界中に広まっていく。
それとともに、誰かと誰かがつながっていく。100年後も、そんな人と人が繋がる瞬間にあり続けるブランドであること。それが、LINCの願いであり、哲学そのものだ。

Silver Magazine No.28
Photo Maru Teppei
Text Takuya Chiba
Edit Yutaro Okamoto